○部長制の廃止 広島県庄原市
1.視察の意図
記憶違いかも知れませんが、私が坂出市役所に就職した昭和53年頃には、各市役所において、部長制というものは決して「当然」のものではなかったように思います。
なぜ、課長の上に部長という組織機構が置かれたのか。何をするセクションなのか。それは、市の機構を示した関係条例と規則に明らかです。
今日、「地域主権」と言われる時代を迎えて、改めてそれらの規定を読むとき、条文そのものは決して古臭いわけではないが今こそ、ここに書いてあるとおりの機能が部長級において果たされなければならない、その時が来ている、そのような印象を受けます。
しかしながら残念なことに、私には、それが立派に機能しているようには思えません。
そこで、人口規模も小さいながら、部長制をなくして市政を運用している自治体もある、メリットとデメリットは何なのか、現地で教えていただくことにしました。
2.庄原市の部長制廃止の経緯
庄原市は1市6町が合併して誕生。5年になるので丸亀市と同じ。しかし面積では1246平方キロと、西日本一の規模であり、このことが支所の必要性、機能などに影響を与える。
合併と同時に財政危機宣言。
平成20年度に組織・機構を見直し。職員数を減らすことが至上命題となるも、支所の職員を一定以上減らすことはできない。そこで部長制も見直し、執行体制の簡素化と事務処理の迅速化を図ることとした。
市長が掲げるプロジェクト達成のため、政策推進課を設置することとした。
3.部長制廃止の詳細
○旧体制では部長級14人
・総務、地域振興、市民生活、環境建設の4部長のほか支所長6、教育次長、水道局
長、議会事務局長、会計管理者。
○平成19年10月、副市長2人制を導入(事務担当、事業担当に分担)。副市長と部長
とはいずれも「機能的な執行体制の確立」という同目的を担うと考え、部長制を見直
し。(一度は議会で否決された)
○前述の経緯から、支所の職員減には限界があることから、幹部職員を削減、実働部隊
の増加を図った。
○平成20年4月、部長制を廃止。
・市長→副市長→課長→係 の本庁組織に
・教育次長は廃止
・水道局は水道課とし、局長は課長に
・議会事務局長は、課長級に
・会計管理者は課長級にし、会計課長を兼務
・政策推進課を新設、情報推進課を廃止
・支所長は課長級にし、一部業務を本庁に移転、支所長の決裁権限を改正
・福祉事務所長業務が増大することが考えられるので、社会福祉課を社会福祉課と高
齢者福祉課に分割するなど対応
・今後の課題として、生涯学習課所管の業務(文化・スポーツ・社会教育・公民館・
文化財・人権ほか)を市長部局に変更することを検討する。
○部長制廃止の効果
・政策立案機構として、政策企画会議、政策検討会議を立ち上げた。
・硬直した部制度では実現しにくい機動的で、若手職員も参画できるものとした。こ
のことから、人材育成、モノを言える係長、女性の登用などのメリットをねらう。
・このことで会議が増えるきらいがある。また開催日には休めない、議会前は大変、
などの状況がある。
・会議は、開催3日前にメールで当日の議案を送付し、事前に目を通しておくルール
にしている。
・提案課の課長が出席し、プレゼンテーションを行う。これに対して他課課長から強
く批判を受け、案の変更を余儀なくされる場合も。
・自治振興区活性化会議を立ち上げ。支所管内の実情や課題の把握、解決、まちづく
りに取り組む。市長が月1回「ふれあい市長室」で地域要望をきくなど、支所機能
低下で悪影響が出ないように配慮している。
4.感想
地方の時代ということがこれだけ叫ばれて、かつ実現しないのは何故なのか。
国の役人が踏ん張って、自らの権限や財源を手渡そうとしないからなのか。
国の政治家もまた「地方に任せて何ができる」と、ハラの底では感じているのか。
それらももちろん一因であると思いますが、より本質的には、「その機が地方に熟してない」ということなのではないでしょうか。
そして市民もまた、「『地方政府』なんておこがましい!」と、ケーブルテレビで議会を見守りながら、感じておられるのではないでしょうか。
今回、思いがけない全国的な積雪を身近に体験しながらの視察を敢行。道中、ちらちらとホテルのテレビや隣の客の読む紙面で入手する情報は、政治家のカネにまつわる大問題。
「一日も早く、地方政府と呼ばれるにふさわしい市役所作りを」と、願わずにはいられない行程でありました。
庄原市では、議員・議長経験もある旧庄原市の市長が合併後も就任。部長制度を廃止しました。
その背景には、1200平方キロという、丸亀市の10倍以上の土地面積(人口は丸亀市の半分以下)で、旧役場の機能をそう簡単に本庁に集中できない、地方に職員が要る、そんな実情の中、なんとか地方に職員を配置するために幹部役職を減らした、という事情がありました。
結果、コスト効果はもちろん、決裁や指示系統のスピードアップが図られましたが、これらのメリットとは逆に、関連課(たとえば民生部門で福祉や健康といった課)が、従来の「部」の枠組みで連携できないという問題点も浮上したとのことでした。
それを克服するために会議会合が増えることになった、というのが偽らざるところで、しかしながらこのデメリットのウラには、その会議に若手の意欲能力のある職員を参加させる、という魅力的な側面が表れているのでした。
ちなみに、市役所の人事は「トコロテンではない」と、担当者はきっぱりとおっしゃっていました。
副市長は二人。議会の答弁では、この二人が活発に登壇するそうです。
そして質疑は一問一答制。部長はいませんから、副市長の次に詳細を答弁するのは、課長です。前述のとおり、フレッシュな課長もいます。
冒頭に述べた「地方主権の時代」を呼び込むあらゆる手だての一つとして、議会での理事者の答弁力充実、複数の課にまたがる案件への対応力強化、マネジメント機能の抜本的な改革などの必要性から、部長制を見直すこともよいのではないかと、私どもは感じています。庄原市の取組は、功罪両面を示していますが、私の感じたところ、この試みは決して悪くない、以前から私が提言している、副市長4人制を導入すれば、庄原市で教えていただいた「会合が増える」「課と課の連携がとりにくい」等の問題点もおそらく克服できる、のみならず(これは庄原市のことでなく一般論として)若手登用がともすれば市長の「目」ひとつにかかってしまうということを避けて、4人8つの目でそれが可能となる、などの観点から、私は取り組む価値は大いにあると感じました。
それらは英断ひとつにかかっています。
国が既得の権限財源を手放したくないと同様、地方は地方でこれまでの「国の支所」的体質や風土から脱却しようとしない限り、日本に地方の時代は来ない、いな、来てはいけないとさえ言えると思います。
「答弁の質を言う前に、質問の質だろ?」との、理事者からの揶揄・反論が聞こえてきそうですが、それはまた別の機会に。
視察行程の間にもう一つ、日本航空の再建問題が取りざたされていました。そして川柳に、「乗員の 重さで堕ちる 日航機」とありました。
笑い事ではありません。他人事でもありません。
銀行も大手建設会社も航空会社も破産する。地方自治体が破産しないという仕組みのほうがむしろおかしいと、乗客たる住民市民は、そろそろ考え始めているのではないでしょうか。
雪に慣れない私たちは足取りもおぼつかなく、難行に似た視察行ではありましたが、まさしく、日本に降り積もる諸問題に、せっせと雪かきをしている市もあるのだと、思わせてくれた庄原市でした。